お菓子・器・ワイン‥‥食卓でポルトガルを旅するフード×トークイベント
2017年10月に開催した、フード×トークイベント「旅と、おやつと、ポルトガル。」。早いものでもう2ヶ月も経ってしまいましたが、年が明ける前に、イベントレポートを綴っておきたいと思います!
まずは、「旅と、おやつと、ポルトガル。」が生まれた経緯から。
元々フランス菓子の世界でパティシエとして働いていた私は、フランスだけでなく、世界各地の郷土菓子に興味を抱くようになり、そして2016年から約一年かけて、世界一周の旅に出ました。
この「世界の郷土菓子を巡る旅」の中では、数え切れないほど多くのお菓子との出会いがありましたが、なかでも特に強烈なインパクトを与えてくれたのが、ポルトガルのお菓子でした。
ひと口に「郷土菓子」といっても、昔からその土地で愛され続けているお菓子に出会うことは、実はそう簡単なことではありません。
実際、アフリカなどのように、そもそもお菓子屋さんやパティスリーを見つけること自体が困難という国や地域は少なくありません。
そんな中にあってポルトガルは、町中にパティスリーがあふれ返っている、まさに“お菓子天国”。さらに驚くべきは、カステラ、金平糖、最中(もなか)など、私たちに馴染み深い和菓子のルーツとされるお菓子が、今も現役で活躍しているということ。
昔ながらの伝統的なお菓子が今なお、ごく自然に生活の中に溶け込んでいるというのは、世界広しといえど本当に稀なことで、そしてそれがそのまま、ポルトガルのお菓子の最大の魅力となっているように思います。
そんなことを感じた旅の経験から、ポルトガルのお菓子を通じて、ポルトガルの魅力を届けられるようなイベントを企画してみたいと考えていた私、旅するパティシエ。
しかし、お菓子に限らず、フランスやイタリアなどのように“わかりやすいアイコン”が極端に少なく、日本人にとってはやや印象の薄いポルトガル、、、
単なるスイーツイベントを開催したところで、本当に魅力的だろうか? そして、本当にゲストが集まるだろうか?‥‥という疑問が残りました。
それならば、お菓子に限定せず、器やワインなども一緒に提供しながら、“ポルトガルの食卓を再現する”をテーマに、ただ食べるだけでなく、ポルトガルの世界観を楽しむイベントにしよう!
・・・と考え、半年以上かけて、大切に大切に温めてきたイベントが、食卓でポルトガルを旅するフード×トークイベント「旅と、おやつと、ポルトガル。」でした。
そんな、一パティシエの思いつきから始まったこのイベントを実現できたのは、賛同してくださった皆さんのお力添えがあったから。
シンプルなポルトガルのお菓子に彩りを与えてくれるのは、やっぱりポルトガルの器!‥‥ということで、最初に手を上げてくださったのが、ポルトガルの暮らしと手仕事を伝えているユニット「CASTELLA NOTE(カステラノート)」さんでした。
なんと今回のイベントのために、現地でしか手に入れることのできないポルトガルの器を、直接買い付けて来てくれたのです。
打ち合わせの段階で、初めてこの器を手に取った瞬間、作り手の表情や温もりを感じ、今回のイベントのイメージが、より具体的に湧いてきました♪
当日は、ポルトガルの器作りの現場や職人さんのストーリーについてお話しして頂きながら、実際にその器にのせて、お菓子を提供。しかもなんと、赤土のやさしい色味が印象的なこの器は、そのままゲストのプレゼントに!
さらに、お菓子のお供に用意したのは「マデイラワイン」。
“旅するワイン”と称されるこのワインは、大西洋に浮かぶポルトガル領・マデイラ島生まれ。マデイラ島は、大航海時代にヨーロッパからアメリカ大陸、インドなどへと向かう、船旅の中継地点として栄えた島です。
赤道まで南下する過酷な船旅の途中に、ヨーロッパ各地のワインが、高温に耐え切れず劣化したのに対し、マデイラ島から積んだマデイラワインは、見事に酸化熟成・濃縮され、偶然にも、香り豊かな独特な味わいが生まれたのだとか。
数百年前のヴィンテージものも楽しめるマデイラワインの魅力は、時間を重ねれば重ねるほどに輝く、美しい黄金の色味と、深い余韻を感じられるその味わい。
偶然の産物として生まれたこの“旅するワイン”は、イギリスの劇作家・シェイクスピアをはじめ、歴史的な偉人たちをも魅了してきたといわれています。
そして今回、このマデイラワインを用意してくださったのが、国内屈指のワインインポーターである「木下インターナショナル株式会社」さんです。
当日は専務にお越し頂き、マデイラワインの歴史や楽しみ方についてもレクチャーして頂きながら、ゲストのみなさんには、ポルトガルのお菓子に合わせて、甘口・辛口、二種類のマデイラワインを飲み比べてもらいました。
・・・そしていよいよ、当日お出しした、ポルトガルのおやつをご紹介します♪
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「Pão-de-ló/パン・デ・ロー」
カステラのルーツといわれている、ポルトガルを代表する郷土菓子の一つ。
元々は守護聖人のお供え物として修道院で焼かれていた、クリスマスに欠かせないお菓子でしたが、今では一年を通して、ポルトガル全土で親しまれています。
主な材料は卵・砂糖で、粉類はほんのわずか。地方やお店によってレシピ、カタチ、配合(火入れ)はさまざまです。
今回のイベントでは、国産の粉も配合することでもっちりとした弾力を加え、ある程度火を入れたスフレタイプに焼き上げ。チェリーのクリームと、ポルトガルのポートワインのソースを少し添えて、仕上げました。
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「Ovos Moles/オヴォシュ・モーレシュ」
日本の最中(もなか)のルーツともいわれている「オヴォシュ・モーレシュ」。
ポルトガルの水郷都市・アヴェイロの銘菓で、モチーフは魚や貝などの海産物。かつては運河を通ってこの街に、たくさんのワインが運ばれていたことから、ワイン樽のモチーフも!
ポルトガルの幸運のシンボルは、雄鶏をモチーフにした「ガロ」とよばれる伝統工芸品なので、今回は、日本の雄鶏の最中を使用しました(笑)
そしてこの最中の中には、「Doce de ovos/ドース・デ・オヴォシュ」という、黄色いクリームがたっぷり。
直訳すると「甘い卵」と言う意味の「ドース・デ・オヴォシュ」。乳製品を加えたカスタードクリームのようなものではなく、卵と甘いシロップで作られるこのクリームは、ポルトガルの郷土菓子には欠かせないパーツ。
使われ方としては、日本でいうところの「あんこ」のようなもので、硬さや形を変えて、さまざまなお菓子に使われています。
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「Pastel de Nata/パステル・デ・ナタ」
地方色の強いポルトガルの郷土菓子の中では珍しく、ポルトガル全域で親しまれている「パステル・デ・ナタ」。世界で最も有名なポルトガル菓子といっても過言ではありません。
今回のイベントでは、パイ生地の粉とバターの種類・配合、そして火を入れてもトロンとした状態が保てるよう、中央のクリームにこだわりました。(現地のままのレシピだと、液体の分量のためか、「す」が立ってしまうことが多いため)
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「Brigadeiro/ブリガデイロ」
ここまで、だいぶ卵尽くしだったので(笑)、ちょっぴりテイストを変えたお菓子を。
かつて植民地であったことから、ブラジルのお菓子は、ポルトガルのお菓子をルーツとするものがほとんどなのですが、「ブリガデイロ」は珍しく、ブラジルで一から生まれ、そしてポルトガルにやって来たもの。
実はこの黒いクリーム、コンデンスミルクからできているのですが・・・
・・・今回は下に「Ginginha/ジンジーニャ」という、リスボン特産のサクランボのお酒を染み込ませた、ビスキュイを敷いています。シンプルに濃厚なクリームを味わえる一品にしました。
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「Pasteis de Tentúgal/パスティシュ・デ・テントゥガル」
その名の通り、リスボンから北に約200㎞のところにある、「テントゥガル村」発祥の郷土菓子。
ポルトガルの旅の中で実際にこの村を訪ね、そして現地のパティスリーで一緒に作らせてもらったので、個人的には非常に思い入れのあるお菓子なのです!
↓詳しくはこちらから
6度目の突撃取材に成功! ポルトガルのテントゥガル村で郷土菓子作り♪
現地では、「オヴォシュ・モーレシュ」などと同様に、生地の中には「ドース・デ・オヴォシュ」がたっぷり詰まっているのですが、今回は、日本人の口に合うよう、その甘さと量の調節にこだわりました。
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「Bolo rei/ボーロ・レイ」
「王様のケーキ」という意味をもつ、ポルトガルの郷土菓子。キリストの誕生を祝うために駆け付けた王様が、このお菓子を贈り物として捧げたことから、その名が付けられたのだとか。
クリスマスや新年をお祝いするためのお菓子は、世界各地に存在しますが、「ボーロ・レイ」もその内の一つです。
発酵生地にナッツやドライフルーツをふんだんに使った、とてもカラフルな見た目が特徴。現地では大きな円形をしていますが、今回はひと口サイズに創作しました。
また、「ボーロ・レイ」の中に「ブリンデ」と呼ばれる、おもちゃの指輪を“当たり”として入れて焼き上げることも、このお菓子の楽しみ方の一つ。当たりを引いた人は、その日から一年間、幸福が訪れるという言い伝えがあるのだとか!
その伝統にならって、今回も“当たり”を入れておいたのですが、40名のゲストの中から見事1名だけが引き当てると、わ〜っと歓声が上がり、会場全体に妙な一体感が生まれました(笑)
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・・・そして、約2時間半のイベントは、あっという間に閉幕を迎えることに。
企画からイベント当日までご協力頂いたカステラノートさん、木下インターナショナル株式会社さん、本当にありがとうございました。
また、開催にあたり後援頂いた、在日ポルトガル大使館、一般社団法人日本ポルトガル協会の皆様に、厚く御礼申し上げたいと思います。
そしてなによりも、当日参加してくださったゲストのみなさま、キャンセル待ちまでご連絡をくださったみなさま、本当にありがとうございました!
わかりやすい観光名所があるわけではないポルトガルは、旅先に選ぶきっかけをつかみにくく、また、実際に現地を訪ねても、その魅力はなかなか伝わりにくい国かもしれません。
だかこそ、お菓子・器・ワイン‥‥何か一つでも興味あるテーマを持って旅してみることを、個人的にはオススメします。
言葉では表現することの難しい、ポルトガルの魅力にふれることができたとき、きっとその世界観の虜になるはずです(現に私もその内の一人)。
「旅と、おやつと、ポルトガル。」が、みなさんの、ポルトガルに訪ねるきっかけになれば幸いです。
あや
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*世界一周の旅を経て、
お菓子ブランドをスタート!
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ステキ、ポルトガルに行ってみたくて調べていました。もとはブラジルに行ってポルトガル語がすきになりました。コンフェイトやカッパ、コップなど日本語になっている言葉もあるので探していてこのページを見つけました。行ったらお菓子をたくさん食べてたいものです。
ありがとうございます!私も再びポルトガルに訪ねる日を夢みてます。次回はお菓子だけでなく、ポルトガルの食卓を旅したいなと考えてます*
素晴らしいイベントを開いたのですね。文ちゃんの実行力には感心させられます。やはり文ちゃんは素晴らしい!!文ちゃんを応援できることは私の誇りです。